一般社団法人 日本有機農産物協会(Japan Organic Products Association)

コラム

VOL.17 “動物を食べること”とアニマルウェルフェア~すべての家畜に“5つの自由”を

※本記事はオーガニックBtoCサイトより移管した記事になります。

https://organic-btoc.com/index.html

「アニマルウェルフェア」という言葉を見聞きする機会が少しずつ増えてきました。直訳すると「動物福祉」を意味するこの言葉の発端は、1960年代のヨーロッパ。イギリスの活動家だったルース・ハリソンが、「アニマル・マシーン」という本の中で、密飼いする家畜飼育の虐待性を痛烈に批判しました。その結果、農家や肉屋の焼き討ちなどの過激な運動にまで発展し、大きな社会問題となったのです。そして近年、アニマルウェルフェアの考え方は欧米を中心に世界中に広がりを見せています。

世論の高まりを受け、イギリス政府は、「すべての家畜に、立つ、寝る、向きを変える、身繕いする、手足を伸ばす自由を」という基準を提唱。それが後にアニマルウェルフェアの基本原則である「5つの自由」として確立し、家畜を含むペットや実験動物など、あらゆる動物に対する現在の動物福祉政策の基準として国際的な共通認識になりました。

「動物を食べること自体が動物福祉に反している」「どうせ食べてしまうのだから福祉も何もないだろう」という意見もあります。しかし、現在のアニマルウェルフェアの考え方は、基本的に、“ペットを飼う”、“動物を食べる”など、人が動物を利用するということは許容しています。その上で、動物を“感受性のある存在”と捉え、すべての家畜が、ストレスや苦痛が少なく、行動要求が満たされ、健康的な生活ができる飼育方法を目指しているのです。

欧米では、アニマルウェルフェアに対する一般消費者の認知が高くなったことで、消費者がスーパーやレストランにアニマルウェルフェア対応の商品を求める動きが出てきました。彼らは、そういう商品は多少値段が高くなることも受け入れています。また、アニマルウェルフェア対応の商品が店頭に並ぶようになったことで、それまで知らなかった消費者の認知度も徐々に上がっているといいます。
近年では世界の主要食品企業がアニマルウェルフェアに取り組んでおり、スターバックスやマクドナルドなどの多国籍企業も次々と取り組みを表明し始めていますが、残念ながら日本ではまだ国民の9割が「アニマルウェルフェア」という言葉を知らず、その普及も遅れがちであると言わざるを得ません。

例えば、豚を例にとってみましょう。豚は本来、穴掘りや泥浴びをし、広大な面積を群れで移動しながら生活する動物です。しかし日本では多くの場合、床がコンクリートや金網の、スペースが限られた豚舎で育てられています。また、よく話題にあがるのが「妊娠ストール」。母豚が気づかずに子豚を踏み殺してしまうことを回避するために導入されている器具ですが、方向転換ができないその飼育状態を問題視する声もあります。

そんな日本でも、アニマルウェルフェアに配慮した飼育を行なう生産者は存在しています。 身動きのとれない狭い場所に閉じ込められるのではなく、太陽の光や風を感じながら、のびのびと過ごす動物たち。十分に運動をしてストレスが少ないため抵抗力が増し、抗生物質や抗菌剤に頼らなくても病気になりにくいというメリットもあります。(それらの薬品は、肉や卵や酪農製品を通して私たちの体内にも入ってくるのです。)

しかしその一方で、密飼い方式に比べると管理に手間ひまがかかったり、経済的な効率が悪くなったりと、生産者の負担が増えることも事実です。それはすなわち、肉や卵や酪農製品の価格が高くなるということ。アニマルウェルフェアが広がっていくためには、コストや生産効率のデータをオープンにし、だれがどう負担するのか、事業者も消費者も考えていくことが必要でしょう。

ライター 小林 さち

日本語学校で教師をしていた20代の頃、生徒さん達が自国の政治・文化・環境問題等について熱く語る様子に刺激を受ける。「自分も“国の底力”を支えるような仕事がしたい」「国の底力ってなんだろう?…まずは“食”と“農業”では?」と、オーガニック系食材宅配会社に転職。仕入れ・商品開発担当者として、全国の農家さん・漁師さん・食品メーカーさん等を訪ね歩く数年間を送る。たくさんの生産者や食材と触れ合う中で、「この国には、良い食品を作ってくれる人が思いのほかたくさんいる。でも、その良さが、生活者(消費者)にきちんと伝わっていないケースが多々あり、良いものがなかなか広がっていかない」ということを痛感するように。以降、広告宣伝の部署に異動した後、独立。現在はフリーランスの立場で、広告プランニング・コピーライティング・商品ラベルやパッケージの企画・食生活や食育に関する記事執筆等を手掛けている。