一般社団法人 日本有機農産物協会(Japan Organic Products Association)

コラム

VOL.13 「グルテンフリー」は実践するべき?~グルテンって本当に身体に悪いの?

※本記事はオーガニックBtoCサイトより移管した記事になります。

https://organic-btoc.com/index.html

最近、日本のスーパーやレストランでも、「グルテンフリー(グルテンを含まない)」と記載された商品やメニューを時折見かけるようになりました。ここ10年ほど、アメリカを中心に欧米で実践者が増えているグルテンフリー食。アメリカのスーパーではグルテンフリーのチョコレート・パン・ビール・パスタ等が当たり前のように棚に並んでおり、グルテンフリー市場は大きくなり続けています。

グルテンの語源は、ラテン語のglue(グルー=接着)。小麦粉・大麦・ライ麦等に含まれるたんぱく質の一種です。一般的に知られているのは小麦グルテンで、小麦に含まれる100種類以上ものたんぱく質の中で最も含有率が高いもの。小麦粉に水を加えてこねることによって形成され弾力性や粘着性を生み出すグルテンは、パン・パスタ・ラーメン・ピザ・ケーキ・クッキー・うどん…等々を作る上で欠かせない成分であると言えます。しかし、このグルテン、アレルギーを持つ人や、分解・分解する酵素を持たない人が存在することが分かってきました。
参考資料[小麦に関する病気]

小麦アレルギー 小麦に含まれるたんぱく質に過剰反応する免疫疾患。小麦には100種類以上ものたんぱく質が含まれているが、どのたんぱく質に反応するかは人それぞれで、なかにはグルテンは大丈夫という人もいる。
グルテンアレルギー
(グルテン過敏症)
 グルテンに対して過剰な免疫反応を起こすもので、全身にアレルギー症状が現れる。アレルゲンは小麦がよく知られているが、やっかいなことに、小麦グルテンに似た構造のたんぱく質を含むほかの穀物(ライ麦・大麦など)にも反応する。
セリアック病グルテンが体内に入ると敵が侵入して来たと勘違いし、自らの小腸を傷つけてしまう自己免疫疾患。小腸の絨毛が損傷するため栄養が吸収できなくなり、慢性的な下痢・便秘・腹痛・嘔吐・倦怠感・貧血・腸の癌・皮膚のかゆみ・関節の痛みなどさまざまな症状が現れる。小麦だけでなくグルテン全般に反応する。
グルテン不耐症グルテンを分解・消化する酵素が不足している、もしくは欠如していることで、全身に慢性的な不調が現れる。(症状はセリアック病と似ている。)アレルギーの有無を調べる抗体検査では発見できないため診断が難しく、自分がこの病気だと気づいていない人も多い。

これらの疾患がある人は、不調の原因となる小麦やグルテンの摂取を制限・除去することが必要で、それがグルテンフリーの食事法というわけです。

グルテンと病気の関係が知られるようになった一番のきっかけは、何と言っても、長年にわたり世界ランキング1位の座に君臨したテニスプレイヤー、ノバク・ジョコビッチ選手と言えるでしょう。彼の著書『ジョコビッチの生まれ変わる食事 ~あなたの人生を激変させる14日間プログラム(2015年発行)』で、グルテンフリー食が世界的に有名になったのです。セリアック病だったジョコビッチ選手ですが、グルテンを含む食材を一切摂らない食事法に変えたところ、「慢性的な腹痛がなくなった」「やる気が湧いてプレーに集中できるようになった」「自然に5kgほど減量でき身体が軽く強くなった」「脳内にかかっていた霧が晴れ、思考が明瞭になった」「長年悩まされていた鼻詰まりがなくなった」等、その効果は心身全般に現れたといいます。「その結果、3つのグランドスラムを制し、世界ランキング1位を獲得。テニス界の絶対王者と言われるまでに強くなれた」と、著書の中で語っています。

この本が世界的にブームになり、グルテンフリー食は健康的な食事法である…として実践者が爆発的に増えていきました。それに応えるように、グルテンフリーの商品を製造・販売・提供する食品メーカーやレストランが増えていったのです。しかし、多くの医師たちが、「グルテンに関する疾患を持っていないのならば、グルテンフリー食にする意味は無い」と考えています。栄養学を研究している団体『Academy of Nutrition and Dietetics』(米国)は、、「グルテンに関する疾患がない人々に対してもグルテンフリー食は健康効果があるということを証明した研究発表はまったく無い。むしろ、グルテン自体に含まれる成分には健康に有益な栄養もあるため、人によってはグルテンフリー食が推奨できない場合もある」と発表。またArthur Agaston医師(米国)は、「市販の多くのグルテンフリー食品はジャンクフードと同じぐらい脂肪・砂糖・ナトリウムが入っているので、白米や片栗粉と同様に血糖値に影響したり、中毒性の引き金を引いてしまう事もあり、健康への影響が懸念される」「また、グルテンフリー食を続けると、鉄分・葉酸・ビタミンB1・カルシウム・ビタミンB12・亜鉛の欠乏を引き起こす場合がある」と警告しています。

グルテンを体質的に受け付けない人にとって、グルテンフリーはとても有効な食事法ですが、「ブームだから」「憧れのスポーツ選手や芸能人がグルテンフリーダイエットをしてるから」といった理由で安易にグルテンフリーを採り入れるのは要注意ですね。本気でグルテンフリー生活を検討中の人は、医師に相談してみるのが良さそうです。

ライター 小林 さち

日本語学校で教師をしていた20代の頃、生徒さん達が自国の政治・文化・環境問題等について熱く語る様子に刺激を受ける。「自分も“国の底力”を支えるような仕事がしたい」「国の底力ってなんだろう?…まずは“食”と“農業”では?」と、オーガニック系食材宅配会社に転職。仕入れ・商品開発担当者として、全国の農家さん・漁師さん・食品メーカーさん等を訪ね歩く数年間を送る。たくさんの生産者や食材と触れ合う中で、「この国には、良い食品を作ってくれる人が思いのほかたくさんいる。でも、その良さが、生活者(消費者)にきちんと伝わっていないケースが多々あり、良いものがなかなか広がっていかない」ということを痛感するように。以降、広告宣伝の部署に異動した後、独立。現在はフリーランスの立場で、広告プランニング・コピーライティング・商品ラベルやパッケージの企画・食生活や食育に関する記事執筆等を手掛けている。