一般社団法人 日本有機農産物協会(Japan Organic Products Association)

コラム

VOL.10 安い卵と高い卵の違いは?

※本記事はオーガニックBtoCサイトより移管した記事になります。

https://organic-btoc.com/index.html

一般的なスーパーの卵売場に最も多く並んでいるのは、10個200円ほどの卵。特売日には10個100円で並ぶこともあります。「価格の優等生」と言われている日本の卵ですが、実はこれは、世界的にみると、異常とも言えるほどの安さ。『Nation Master』というオーストラリアのwebサイトには、世界各国の卵の価格が掲載されています。

日本の卵の安さがお分かりいただけたと思いますが、その一方で、1個あたり100円近い値段がついている卵もあります。また、白い卵・赤い(茶色い)卵・赤味が淡い卵など、色にもバリエーションが。

●赤い卵と白い卵は親鶏の種類の違い
多くの場合、赤い卵よりも白い卵の方が安いので、「赤い卵の方が品質が高い」というイメージがあるようです。基本的に、羽根の色が白い鶏からは白い卵が、茶色い鶏からは赤い卵が生まれますが、味や栄養価には違いがありません。白い鶏は身体が比較的小さく、たくさん卵を産み、茶色い鶏は身体が大きくて餌をたくさん食べる割に産卵数が少ないため、その違いが値段に反映されているようです。

●品質と価格の差は、「餌」と「育て方・飼い方」の違いによって生じる
卵の品質は、殻の色(=鶏の種類)ではなく、「餌」と「育て方・飼い方」に影響を受けます。それらにこだわると、当然、価格も上がります。

①オーガニックな餌にこだわったもの、遺伝子組み換えでない飼料を与えたもの、ビタミンC・ビタミンE・ヨード等を餌に含ませて栄養強化を図ったもの等は、一般的な餌で育てたものよりも食味や栄養価が高くなる。
②よりストレスの少ない環境で育てられた鶏ほど大きくて美味しい卵を産むと言われている。
③体力の落ちる夏よりも、温暖な春・秋の方が、殻に厚みのある美味しい卵が生まれる。
④狭いケージの中でぎゅうぎゅう詰めに飼われるものより、ある程度のスペースを自由に歩き回れる“平飼い”の鶏の方が、弾力のある濃厚な卵を産む傾向がある。

●ケージ飼いの主流品種は「白色レグホン」
同じ餌・同じ飼い方で育てられている鶏から生まれた卵ならば、白でも赤でも栄養価や味は変わりません。日本では、狭い場所で管理しながら大量に卵を産ませるように仕向けられている鶏の多くが「白色レグホン」という種で、ケージ飼いで1年間に300個を超える白い卵を産んでいます。(特売品になる卵のほとんどが、このタイプです。同じ白い卵でも、餌にこだわった鶏や平飼いの鶏のものは価格が上がります。) これに対し、平飼いの鶏の多くは茶色い種です。鶏が土に触れて自由に歩き回る飼い方は、病気に強い性質を持つ茶色い鶏の方が向いているとされているからです。

●先進国ではなくなりつつあるケージ飼い
かつては効率と経済性重視で、世界中のほとんどの採卵鶏がケージ飼いされていました。しかし、21世紀以降、ヨーロッパを中心に先進国の多くが次々と平飼いに移行しています。EUでは2012年にすべての採卵鶏のケージ飼いが禁止になりました。世界最大の鶏卵生産国であるアメリカでも、各州の州法においてケージ飼育が続々と禁止されています。これは、「アニマルウェルフェア(動物福祉)」の取り組みが急速に進んでいるためです。

●“安い卵”の生産現場
何段にも積み上げられたケージの中に4~6羽の鶏がぎゅうぎゅう詰めにされたまま、ほぼ毎日1個の卵を生涯産み続けるのが、日本の多くの採卵用鶏の実態です。ヨーロッパとは逆に、ここ20年位の間にケージ養鶏の飼育頭数は3倍にも増えました。

①雄は生まれてすぐに二酸化炭素やシュレッダーで殺される。
②ケージに入れられて歩き回れないため、伸び放題の爪のせいで足が炎症を起こして腫れている鶏もたくさんいる。
③卵が手前に転がって集めやすくするように、床は10度程前に傾斜しており、鶏たちの足場が不安定。
④鶏は自然に飼うと10年くらいは生きるが、ケージ飼いの採卵鶏はストレスの高い環境で過酷に産卵し続け、2年たたずに食肉用に回される。
⑤産卵を始めて1年後くらいに、一度産卵ペースが落ちてしまう時期が来るが、養鶏農家によっては、再度産卵を促進するために、しばらく鶏たちを断食させることがある。その間、鶏は衰弱して羽が一度全部抜けてしまい、これを「強制換羽」という。通常採卵用の鶏には、食肉用に使われる抗生物質は投与されないと言われているが、強制換羽の期間は病気にかかりやすくなるため、抗生物質を与えることがある。


●卵選びは何を基準にするか
家計に優しい安い卵は、過酷な環境と運命を強いられた鶏が産んだものであるというのが、日本の養鶏の実態です。欧米でのケージ飼い禁止の動きを受けて、日本でも行政が動き出し、2014年、農林水産省から「アニマルウェルフェアの考え方に対応した飼養管理指針」の通達がなされました。今一度、何を一番に考えて卵を選ぶべきか、めいめいでよく考えてみたいものです。「卵かけごはんの日はオーガニックな卵にこだわる」「お給料日直後は、いつもより高い卵を買う」など、無理のない範囲で、出来るところから変えていくのも良いと思います。

ライター 小林 さち

日本語学校で教師をしていた20代の頃、生徒さん達が自国の政治・文化・環境問題等について熱く語る様子に刺激を受ける。「自分も“国の底力”を支えるような仕事がしたい」「国の底力ってなんだろう?…まずは“食”と“農業”では?」と、オーガニック系食材宅配会社に転職。仕入れ・商品開発担当者として、全国の農家さん・漁師さん・食品メーカーさん等を訪ね歩く数年間を送る。たくさんの生産者や食材と触れ合う中で、「この国には、良い食品を作ってくれる人が思いのほかたくさんいる。でも、その良さが、生活者(消費者)にきちんと伝わっていないケースが多々あり、良いものがなかなか広がっていかない」ということを痛感するように。以降、広告宣伝の部署に異動した後、独立。現在はフリーランスの立場で、広告プランニング・コピーライティング・商品ラベルやパッケージの企画・食生活や食育に関する記事執筆等を手掛けている。