一般社団法人 日本有機農産物協会(Japan Organic Products Association)

コラム

環境と調和した農業の次世代への継承

※本記事はWHY ORGANICサイトより移管した記事になります。

https://whyorganic.jp

Interviewee農事組合法人 ながさき南部生産組合 
近藤 一海さん

「食」を通じて自然との共生を目指す

令和3年度「未来につながる持続可能な農業推進コンクール」(農林水産省主催)の「有機農業・環境保全型農業部門」において「農林水産大臣賞」を受賞したながさき南部生産組合(長崎県南島原市)は、1975年に有志5人で結成された農事組合法人。

代表の近藤一海さんを訪ねるべく長崎へ。長崎空港に降り立ち、県南部に位置する島原半島へ車を走らせました。

島原半島は日本最初の国立公園に指定された雲仙岳があり、また日本で2番目に海岸線の長い県。周囲を海に囲まれ、温暖で湿潤な気候、火山土を基礎とした肥沃な土、日本名水百選に選ばれるほど上質な水源にも恵まれた自然豊かな地域です。

農家が暮らしていける農業の形と本物の有機農業の追求

近藤さんは農家の家庭に生まれ、朝から夜まで働く両親の姿を見ながら育ちました。

「こんなに一生懸命働いているのになぜ暮らしが楽にならないのだろう?」いつも疑問に感じていたこと。

地元の農業高校卒業後に上京。大学に通いながら、大手青果卸売会社へ勤務。流通の現場を知り、そこでも疑問にぶつかります。「市場流通では生産者に価格決定権がない。生産者自ら価格決定に関わり、生計を立てられる農業のあり方とは?」

化学肥料や農薬を多用する近代農法にも疑問を抱きました。近藤さんが上京したころ、地元九州では四大公害病の1つである水俣病が発生。島原半島から有明海をはさんだ対岸である熊本県で起こった社会問題に、近藤さんはこう思いました。「水銀を農薬に置き換えれば、農業も漁業も同じだ」と。

そこから、「環境」と「食の安全」の問題を考え、本物の有機農業を追求する道が始まったのです。

ゼロスタートから試行錯誤の苦節10年、確立した「有機と産直の組織」

当時は、まだ有機農業に対する認知度も低く成功事例も少なかった時代。各地の研究会に加入し知識習得に努めたり、地元で研究会を立ち上げるなど栽培法の勉強を重ねました。試行錯誤を繰り返しながら、販路を求めて有機農産物への関心の高い生協やスーパーに通い続ける日々。

研究会設立から9年後、ようやく実現したのはスーパーのマルエツとの提携。徐々に軌道に乗りはじめ、生協を中心に全国へと提携先が拡大していきました。

現在、組合員は143人、年間売上高は約21億円。主要な売り先は生協や消費者団体など、産消提携による取引が7割を占めます。市場出荷比率はわずか1~2%と、産直を通じ流通経費を削減することができ、組合員の手取りの確保を実現しています。

産消提携から直売事業・インショップ展開へ

創立30周年を迎える2005年、新たな挑戦に乗り出します。それは、長崎空港や長崎市に近い諫早市に農作物直売所「大地のめぐみ」の開設。

店頭には、残留農薬検査の結果の掲示や、有機JAS農産物、農薬の使用状況別に商品ラベル分類するなど、食の安全・安心へのこだわりを発信。若い子育て世代の顧客も増え、年間売上高は2億円を超える規模にまで成長を遂げます。

さらに2006年、地元生協や小売店の協力を得て、「てんとう虫農園」の名で産直のインナーショップ事業も展開スタート。長崎市内5店舗、福岡市内12店舗、鹿児島市19店舗と店舗数拡大、売上高の約3割はこれら直販事業に支えられています。

本物の農業を次代へ
若手農業者を育成する組織的な取り組み

農業政策の大きな課題の1つである「後継者育成」。近藤さんはその課題にも、長年情熱を注いできました。その1つが、30年もの実績を持つ農業研修制度。
重要なのは、これまで培ってきた志と生産技術を次の世代に引き継いでいくこと。
「安全な食べ物とは何か」「どうしたら美味しい農作物ができるのか」研修会などを通じて学ぶとともに、新規就農者や研修者の受け入れ、交流会の開催など積極的に実施。本物の食べ物の価値を理解し、実践していく農業者の育成を目指し継続しています。
現在、日本農業の中心的な担い手の平均年齢=67.9歳と高齢化と後継者問題が深刻視されるなか、組合員の平均年齢は57歳。親子二代で農業を営む会員の存在は心強く、40歳未満の若手が40人も育っているそう。
創立メンバーから次世代への事業継承も進み、父親の代から組合員という中村大介さんに代表理事のバトンが引き継がれ(2016年)、近藤さんは会長に退きました。

取引先と消費者と信頼関係を積み重ね、歩んできた47年間

生産・流通・消費の「分断」への挑戦から始まったながさき南部生産組合。
歩みを振り返り近藤さんは、
「理念を共有した提携先、生協や消費者団体は、販売先というよりも志を同じくする”仲間”です。お互いが協力しながら、生産体制、流通体制を整備し、消費者との連帯関係を築いてきました」と語ります。

農作物にとっての土は、人間と食べ物の関係と同じ

「食の安全は生産者が守る」を使命に、環境保全型農業を積極推進しながら、「地産地消」を通して「生命に直結する農業」と「農の豊かな関係」を目指す。「生きた土」を作りながら、安心・安全な野菜果物の生産を長崎の大地から。近藤さんの挑戦と革命は、今日も続きます。


農事組合法人 ながさき南部生産組合
https://www.tentoumusi.net/