一般社団法人 日本有機農産物協会(Japan Organic Products Association)

コラム

オーガニックでウェルビーイング! 究極の持続可能性への第一歩、暮らしの中で「小さな地球」を意識する

※本記事はWHY ORGANICサイトより移管した記事になります。

https://whyorganic.jp

「ウェルビーイング(Well-being)」とは?

「ウェルビーイング(Well-being)」とは、Well(よい) とBeing(状態)の2語が組み合わさった言葉で、身体的、精神的、社会的に良好である状態を指す概念です。1946年世界保健機関(WHO)設立時、憲章の前文において初めて登場しました。
SDGsの17の目標の中にも登場し、現代社会が目指すべき社会において、不可欠なキーワードの1つと言えるでしょう。

「ウェルビーイング」と「持続可能性」。なんだかますます複雑化するような…。

実践のヒントとは?
まさにその2つのキーワードがクロスする暮らしを、家族単位で実践しているパーマカルチャーデザイナー四井真治さんにお話を伺いました。

「パーマカルチャー」とは

「パーマカルチャー」とは、Permanent(永続性) 、Agriculture(農業)、Culture(文化)を組み合わせた造語で、持続可能な生活システムをつくり出すためのデザイン体系のこと。  1970年代にオーストラリアの生物学者ビル·モリソンとデイヴィット·ホルムグレンにより提唱されました。

四井真治さんは、日本におけるパーマカルチャーの第一人者。緑化工学を学んでいた学生時代にパーマカルチャーに出会い、2007年から山梨県北杜市に移住。八ヶ岳南麓の雑木林に築40年(当時)の中古日本家屋をリノベし、持続可能な暮らしの最小単位である「家族」だけでいかにパーマカルチャーデザインを実践できるのか、生活実験をし続けています。

これより以下は、四井さんに伺ったお話ををまとめたものです。

人間という存在は、地球環境にとってネガティヴ負荷なのか?

「エコロジーってなんだろう?」
地球にインパクト(負荷)をあたえないこと?地球にやさしい暮らしって?地球に人間がいることによって、まるでガン細胞のように地球に悪影響を及ぼすんだろうか?

自分のこどもにそんな話をしたくなかった。それは、自分たち人間の存在を否定することになるから。

「人間はなぜ生きているのか?」まずはその問いを追求したほうがいい。
「命とは何か?」それを考えない限り、本当の豊かさは得られないと思う。
何億とお金を稼げば?、安定的な収入が入ってくれば?、=「幸せ」なのか?そうは思わない。

人の暮らしとは、「経済の仕組みの上」に成り立っているのではなく、本来、「生態系の仕組みの上」に成り立っている。そうゆうふうに考えていかないと、答えは出せないと思う。

SDGsの17の目標も、ウェディングケーキモデルから考えるとわかりやすいと思う。3段構成になっていて、1番下にある「BIO SPHERE」=生物圏が土台になり、その次に上段の社会圏→経済圏が成り立っているというSDGsの概念を表されている。

はじめの一歩は、「小さな地球」を作ること

この地球の仕組みは、40億年前にたった1匹の微生物から始まっている。そこから突然変異が起こり、進化することで多様性が生まれ、今の地球に至っている。
最初の何十億年は微生物しかいない世界だった。微生物がいることが前提で、我々人間が存在している。

「三尺流れれば水清し」ということわざがある。1尺=30cm、つまり90cm流れれば、川の水がきれいになるということを表現している。それは、水中の微生物や藻類によって自浄作用が働くから。それを理解し暮らしにデザインしたものが「バイオジオフィルター」。

台所横に設置されている「バイオジオフィルター」

バイオジオフィルターとは、多孔質の砂利を敷き詰めた「自然浄化装置」で、微生物と土の働きで生活排水に含まれる有機物が分解され無機化される。水路の途中に空芯菜など食用可能な植物を植えてあげることで、栄養分を吸収し成長する。

栄養素が吸収されることで水が浄化され、きれいになった水がビオトープに貯まる。水辺ができること多様性が生まれる。

元々我が家の敷地は、高台にある傾斜地で、土質は水捌けのいい火山灰の乾燥した土地で、水辺はありえない環境だった。

しかし我々が暮らすことによって水を使い、下水管に流すのではなく、自然に還す「仕組み」にすることで「水辺環境」を作ることができた。

昔は身近な存在であったメダカやどじょうが、今では絶滅危惧種となっている。なぜいなくなってしまうのか? それは住む場所が失われていくから。

1970年代に比べると、ここ過去50年ほどで地球上の生物多様性は半分以上消失している。時代は高度経済成長の後半で、レイチェルカーソン「沈黙の春」が出版されたのもこの頃。
特に淡水域の生物多様性は90%消失したと言われている。地球の表面は3分の2は水で覆われているが、そのうち97.5%は海水で、淡水域(湖、川、湿地など)はたったの2.5%しかない。そもそも貴重な生息環境であり、人の暮らしで水利用が増えたことなどによって深刻な影響を受けている。

人が暮らすことによって水が集まり、水が他の生きものが住むきっかけを作ることができる。環境を壊すのではなく、生きものを増やす=多様性を増やすきっかけになり得るということ。

社会の持続可能な最小単位は「家族」であり、家族単位でこうした暮らしの場に多様な環境が生まれ、つながり、デザインができるようになれば、「小さな地球」を作ることになる。そんな点と点がつながり、線となり、面となり、みんなの小さな地球がリアルの大きな地球につながっていく。

現在の人間活動は環境破壊に向かっているが、きっとこのような小さな地球が面になっていくことで、加速度的に環境はよくできるのだと思う。人が生きものたちの活動を助けることで、地球環境を回復するスピードの方が速くなるのではと思う。なぜなら、生命のつながりによって加速度的に生きものは増えていくことができるから。

たとえば、1本の木が何百もの種を巻いて、たくさんの苗木が育つように。木の下の土中には5倍の生物がる。1匹のミミズは、半年後に3000匹ほどにまで増える。
人が環境を整えてあげれば、生物が増え、生物が増えれば、炭素も固定してくれる。

そこに目を向けて、暮らしの中で小さな地球を意識したライフスタイルデザインを実現できれば、人間が生きていく意味が生まれるのではないかと思う。

持続可能な人間の暮らしを一言で言うと
「暮らすことが同時に土をつくる存在であること」

16年間、たった4人の家族の暮らしで生活実験を続けてきた。いろんな仕組みを実現するたびに思うのが、人の暮らしの中にある可能性。

現代では、たとえばゴミは焼却され、生活排水や排泄物は下水道に流され、二度と農地に還ることはない。
我が家では、庭の落ち葉や、うんちやおしっこは、すべて堆肥小屋へ。一緒に暮らす動物を弔うのも、堆肥小屋。

コンポストトイレにより、排泄物は全て堆肥化→自家菜園の肥料に

大正時代の染付の小便器。配管と通じていて、おしっこ液肥に

すべての命·有機ごみは微生物の力で堆肥化され、畑から土に還るという循環の仕組みで成り立っている。
このように本来の暮らしは、人が暮らすことによって同時に土ができ、同時に他の生き物を増やすきっかけを作る。さらにそれらはポジティヴフィードバックを生んで、加速度的に環境をよくすることができることを実感している。

堆肥小屋と、奥様の千里さん。家族の一員であるニワトリの居場所もこちら。鶏糞もまた堆肥に

ヤギも家族の一員。畑の雑草を食べてくれる

小さな働きは、大きい
地球の大気を変えた小さく偉大な「微生物」の存在

太古の時代、微生物は地球の大気を変えた。地球上に初めて光合成を行う「シアノバクテリア」が出現し、大気中の多くを占めていた二酸化炭素を吸収し爆発的に増え、たとえ植物が活動できなくなったとしても150万年かけないと消費しきれないほどの酸素を作った。

微生物は顕微鏡でしか見えないようなミクロな存在。しかしその働きは、どれだけ偉大なのだろう。

現代のインターネット社会も似ている。1クリックであっても、世界の何億人もの人々の1クリックは、莫大なお金が動くことになる。

親戚である横浜国立大学名誉教授・故宮脇昭先生は、「国民1人あたり3本の木を植えましょう」と提唱している。日本国民1億2000万人が3本植えたら、3億6000万本もの木が増える。

同じように、僕らの暮らしの仕組みのなかで1人1人が小さなことでもアクションを積み重ねていく。そうすることで、必ず大きな地球の環境はよくできるはず。

温室効果ガスの問題も、化石燃料が原因だと思っていない。

生物多様性が失われることにより、産業革命の前と後で生物量がどれだけ変化しているか?なんと半分にまで減っている。
生きものには物質エネルギーを集める働きがあり、集める働きも半分に減っていることになる。

集めるものの1つに「炭素」がある。

人の体は16%が炭素、もし体重75kgの僕の体を火葬したとすると、44kg(乾燥重量)の二酸化炭素が出る。木々も半分は炭素で構成されている。

生きものは炭素を集め蓄えているが、生きている動的平衡状態でないと、分解され二酸化炭素となり生物体が大気に移ってしまう。

だから大気が二酸化炭素リッチとなり、いま温暖化になっているのではないか。その量を考えると、化石燃料の量は比べ物にならないほど少ない。

「環境問題を解決する」というと、とかく社会の仕組みや環境技術にたよる傾向にあると思うが、これからは暮らしが「豊かになるということが同時に起こる」ということを考え、日々の暮らしや仕事に活かしてもらいたい。
生命の歴史は40億年以上続き、持続可能な仕組みであるいのちの延長線上に暮らしや仕事の仕組みを構築すれば、必ず豊かになり平和が訪れるのです。

四井さん推薦図書

人が暮らすことでその場の自然環境·生態系がより豊かになる
「地球の仕組みに貢献できる」日々の喜び

いまの暮らしに至るまで、数々の失敗や成功、気付きを繰り返してきた。その上で、いのちとは持続可能な仕組みであり、その仕組みをもとにした持続可能な暮らしをデザインすることで本当の意味で「いのちの仕組み」とつながることができる。デザインすることで、生物多様性を生み、環境を豊かにすることができ、
生きているだけで地球の仕組みに貢献できるという暮らしにたどり着くことができた。

文化も持続可能ないのちの仕組みの延長線上に生まれたもので、知のいのちの仕組みとして生まれたものであり、毎年いろんな時期に暮らしの仕込みを行い、四季折々の自然の移ろいや実りを楽しむことができ、持続可能性につながっている。そして、他の生きものが存在するありがたみを実感することができる。人間は、この二つの持続可能性を持っているはず。この暮らしで得られる充足感は、お金で買えるものには換えがたい大きな価値と喜びがあります。ここでの暮らしが生きがいであり、生き様なんです。
こういった本当の意味での持続可能なライフスタイルの魅力を、これからもより多くの人に知ってもらえたらと思います。

四井家の自家菜園

Info:
2023年秋
新著発売予定
(アノニマ・スタジオより)