一般社団法人 日本有機農産物協会(Japan Organic Products Association)

コラム

VOL.14 “オーガニック警察”にならないで~あなた自身を縛り付ける“ネバナラナイ病”

※本記事はオーガニックBtoCサイトより移管した記事になります。

https://organic-btoc.com/index.html

筆者は、かつて、オーガニック食材を宅配する会社でバイヤーとして働いていたことがあります。その当時、いつもとても熱心に質問をしてくる職場の後輩がいました(ここではA君と呼びます)。その質問の1つに、「うちの会社は、なぜポテトチップスを売っているんですか?」というのがありました。「発芽防止の放射線照射を行っていないじゃがいもを使っているのは分かっています。揚げ油や塩を厳選しているのも知っています。でも、そもそも、スナック菓子を食べるという食生活自体が良くないわけじゃないですか。健康的な食材と情報をお届けするのが僕らの仕事でしょう? むしろ、スナック菓子を食べるという習慣はやめようと訴えていくべきじゃないんですか?」と。

彼の子ども時代、日々のおやつには、干し芋・野菜スティック・茹で卵・小ぶりのおにぎりなどが用意されていたとのこと。「お友達がお菓子を食べているのを見て、自分も食べたくなったりはしなかった? そういう時はどうしていたの?」と尋ねると、「たまに、母が国産小麦でパウンドケーキやクッキーを焼いてくれました。どうしてもスナック菓子が食べたいと拗ねた時は、自宅でじゃがいもをスライスして手作りしてくれたこともあります。でも、そういうものを食べていたのは、せいぜい月に1回程度でしたよ」とA君。“安全な食を多くの消費者に届ける!”という使命感に燃えて入社してきた彼は、自分の働いている会社がスナック菓子を販売していることが本当に悔しいらしく、小さい子どもが拗ねた時のように口元を尖らせています。

そこで私は、こんな話をしてみました。「A君のお母様は、家族の健康のために食生活にとても気を付けてくださっていたのね。あなたは、とても愛されて幸せな子ども時代を過ごしてきたのでしょう。それはとても素晴らしいことだと思う。でも、お母様のように行動するには、食に関する知識とか、調理の技術とか、経済力とか、時間的・精神的・体力的な余裕とか、色々なものが必要なんだと思う。世の中のすべての保護者がそうなるのは難しいでしょ? 安全な食に対するこだわり度は各家庭によってまちまちだけど、多かれ少なかれ安全な食材を求める意志があるから、皆さん、この会社の宅配を利用しているわけだよね。中には、『スナック菓子が好ましくないのは分かっているけれど、子どものお友達が遊びに来た時とかに必要なこともあるから、せめて安全な素材で作ったものが欲しい』という親御さんもいるのよ。色々なご家庭のために出来るだけ選択肢を揃えておく…というのが、この会社のスタンスなわけです。ポテトチップスは不要だと思う人は、買わなければいいだけ。…そう思わない?」 A君は、しばらく考え込んだあと、「そういうことなんスかね~」と言って帰っていきました。

食にこだわっている人に時々あるのが、「~ねばならない」と思い込んで自分を縛ってしまうこと。“身体に悪い”と思っているものを食べてしまった時に自己嫌悪に陥ってしまったり、自分よりも知識やこだわり度合いが低い人を否定的な目で見てしまい人間関係がギクシャクしてしまったりすることもあります。ネットでちょっと検索してみると、「妊娠・出産を機に農薬や食品添加物が気になりだしたが、神経質になりすぎて疲れてしまった」「子どもにはオーガニックのものだけを食べさせたいのに金銭的に無理で憂うつ」「食の安全性についての発言が増え、周りから“オーガニック警察”と呼ばれて煙たがられている」等々、あちらにもこちらにも、“ネバナラナイ族”の悩みが溢れていました。健康で幸せな生活のためにオーガニックを選んだはずなのに、これでは逆にストレスを溜め込んでしまっていますね。

食材選びは、とてもパーソナルなもの。自身や家族の好みや体質、ライフスタイル、収入と食費のバランスなど、様々な要因によって大切にしたいことの優先順位は異なるはずです。迷ってしまった時は、まず、家族が頻繁に口にするものをオーガニック食材にして、“出来る範囲で、ゆるりと”オーガニックライフを続けてみてはいかがでしょう? 栄養バランスについても、一食ごとに完璧を求めるのではなく、1日単位、3日単位…と、「一定の時間の中でバランスが取れていればいいや」…と考えると、気が楽になるのではないでしょうか。食べるという行為には、“身体をつくり維持するため”ということだけでなく、“心を潤してハッピーな気分になるため”という意味もありますよね。長く続けられる、無理のないオーガニックライフを送っていただきたいと思います。

ライター 小林 さち

日本語学校で教師をしていた20代の頃、生徒さん達が自国の政治・文化・環境問題等について熱く語る様子に刺激を受ける。「自分も“国の底力”を支えるような仕事がしたい」「国の底力ってなんだろう?…まずは“食”と“農業”では?」と、オーガニック系食材宅配会社に転職。仕入れ・商品開発担当者として、全国の農家さん・漁師さん・食品メーカーさん等を訪ね歩く数年間を送る。たくさんの生産者や食材と触れ合う中で、「この国には、良い食品を作ってくれる人が思いのほかたくさんいる。でも、その良さが、生活者(消費者)にきちんと伝わっていないケースが多々あり、良いものがなかなか広がっていかない」ということを痛感するように。以降、広告宣伝の部署に異動した後、独立。現在はフリーランスの立場で、広告プランニング・コピーライティング・商品ラベルやパッケージの企画・食生活や食育に関する記事執筆等を手掛けている。